はじめに

「たくさん勉強してきたのに、なぜかクライアントとのセッションがうまくいかない。」
「理論通りに言葉をかけたのに、選手の表情が変わらなかった。」

そんな声を、これまで何度も耳にしてきました。
そして、かつての私自身も、まさにその壁にぶつかった一人でした。

スポーツメンタルコーチを目指す人の多くが、まずは理論や知識を学びます。心理学、脳科学、コーチングの理論など…

そのどれもが重要で、コーチとしての土台を支えてくれるものです。ですが、その知識を「正しさの拠り所」にしてしまうと、現場で人と向き合う柔軟さを失ってしまうことがあります。

本当に選手の心を動かすのは、完璧な理論でも、知識の量でもありません。

それは、あなた自身が『どれだけ現場で感じ、悩み、実践し、問い続けてきたか』という体験の蓄積です。

このブログでは、「知識は大切。でも、それだけでは足りない」という視点から、
スポーツメンタルコーチにとって必要な『生きた力』とは何かを一緒に探っていきます。

あなたの学びが、机の上を超えて、目の前の誰かに届く知恵となるように。
その一歩のきっかけになれば嬉しいです。

第1章    知識や理論は出発点にすぎない

スポーツメンタルコーチを志すと、多くの人がまず「理論を学ぼう」と思います。

心理学、脳科学、コーチング理論、成功事例、質問技法…
本を読み、講座を受け、ノートをとり、知識を吸収していく。

それは間違いなく、必要なステップです。

なぜなら、知識がなければ、何をするにも判断の軸が持てません。

「いま、目の前の選手にどう接すればいいのか?」
「この言葉にはどんな風に返したらいいのか?」

こうした問いに答えるために、知識は心強い【地図】になります。

しかし、
知識や理論は、出発点にすぎません。

どれだけ正しい地図を持っていても、
実際に歩き始めなければ、目的地にはたどり着けません。

そして、歩いてみてはじめてわかるのが

「この道、想像してたのと違うな」
「ここ、地図にない障害物があるぞ」
「この分かれ道、どっちに進むべきか、地図だけじゃ判断できない」

メンタルコーチングも同じだと思っています。

選手は生身の人間です。
その日の心と身体は常に揺れ動いています。

「理論通りに言ったのに反応が薄い」
「この技法、まったく刺さらない」

そんな場面に直面し悩むことがあります。

さらに、オンラインでのセッションが増えたことで、相手の表情や身体の状態、呼吸のリズム、沈黙の「空気感」といった微細な情報が感じ取りにくくなっています。

こうした非言語的な手がかりが限られる状況では、メンタルコーチはつい知識に頼りたくなるのです。

しかし、情報が少ないときほど、選手の変化を丁寧に観察し、反応を受け取る感性が求められます。

そのとき、知識しか持っていないと、コーチは立ち止まります。

「なぜうまくいかないんだろう?」
「もっと学ばなきゃいけないんじゃないか?」

そうやって、また【次の知識へと逃げる】ようになります。

でも、本当に必要なのは、『今ここ』の選手の状態を感じ取り、柔軟に対応する力です。

それは、