現代人は、家事や子育てそして仕事の疲れや人間関係などに多少なりともストレスを抱えています。特に日頃から厳しい練習を重ねるアスリートのストレスは計り知れないものです。選手たちは、さまざまな方法で疲れや気持ちを癒し、リラックスできる工夫をしています。しかし、強いメンタルを持つ選手ほど”これぐらい大丈夫”と我慢してしたり、”無理をしている”自覚症状がないままストレスを抱え込んでしまう傾向にあります。アロマオイルは香りを楽しんでリラックスするために使うイメージでした。しかし近年では、体や心を癒やすだけではなく、怪我の予防や筋肉痛の緩和などの効果も期待されています。今回は、安定したメンタルを求める選手たちにおすすめのスポーツアロマについてお話します。

目次

メンタルケアにも用いられる”スポーツアロマ”とは
”万能精油”ラベンダーの効果
成分で分類される4種類のラベンダー
なでしこジャパンの選手たちを癒したラベンダー


メンタルケアにも用いられる”スポーツアロマ”とは

日本語で”芳香療法”と訳されるのがアロマセラピーです。これを略してアロマと一般的に称されます。アロマテラピーとは、植物の香りで心身の疲れを癒し、健康に導く療法のことです。本来持っている治癒能力を高めたり、心や体の不調を改善する効果もあります。古くから多くの国で健康に役立ってきたもので、特に香りが強い植物を”香薬(こうやく)”と呼び、薬の原料にも使用していた歴史があります。

この香りがある植物から抽出した精油がアロマオイルです。アロマオイルの使い方としては、香りを嗅ぐ、吸引する、アロマオイルを薄めたものを肌に塗ることで体内に成分を取り込んで効能を得ます。特にアロマテラピーの歴史が古いイギリスでは、”療法”として代替医療や補完医療として医療現場に浸透しています。

このアロマテラピーの効果をスポーツの分野で選手たちのパフォーマンス向上に活かしたものが”スポーツアロマ”なのです。スポーツアロマの目的は、怪我を予防すること、筋肉痛をやわらげる、ホルモンバランスの調整、疲労回復など選手のコンディションを整えることです。その時期に応じて使用用途もさまざま。

例えば、大会前には集中力を高めることや筋力や持久力を高める効果を期待して用います。そして大会後には、疲労をやわらげたり、血流を促進するなど身体のケアに用いることができます。さらに強い精神力を必要とするスポーツにおいてアロマオイルの香りの作用は、メンタルのケアにも用いることができるのです。

”万能精油”ラベンダーの効果

身体的にも精神的にもスポーツ選手に良い影響を与えるアロマオイル。代表的な香りとして、ラベンダー、ベルガモット、スイートオレンジ、ローズマリーなどが挙げられます。

その中でも、一番代表的でアロマテラピーで使用されるオイルのため”万能精油”とも称されるのがラベンダーです。地中海地域が原産で特にプロヴァンス産のものは最上級と言われています。ラテン語で”洗う”と意味するラベンダーは、天然の精神安定剤と称される”セロトニン”の分泌を助ける作用があります。鎮静作用が成分の70%を占めますが、抗炎症効果もあるので筋肉痛をやわらげたり、傷の治りを促進させる作用もあります。

そのため古くからローマでは洗濯や浴室、戦時中のフランスでは負傷した兵士に火傷の消毒や鎮痛剤として使用されてきた古い歴史があります。また血圧を下げたり心拍を沈める効果もあり、緊張感を抑えリラックスできるため良い睡眠を促すことも研究で裏付けられています。”交感神経と副交感神経のどちらを優位にしたい時にも用いることができるラベンダー。多くの効能を持ち、その万能さから”バランサー精油”とも称されるのです。疲労を感じた際には、心が落ち着くラベンダーの香りをおすすめします。

成分で分類される4種類のラベンダー

紫が一般的な色ですが、海外では白や黄色のものもあるラベンダー。品種は”真正ラベンダー”、”スパイク・ラベンダー”、”ラバンジン”、”フレンチラベンダー”と大きく分けて4種類です。一般的にラベンダーと呼ばれるのが”真正ラベンダー”ですが、コモンラベンダーやイングリッシュラベンダーとも呼ばれます。酢酸リナリルという成分を多く含み、ラベンダー本来の香理を楽しむことができるリラックス効果が非常に高い品種です。

”スパイク・ラベンダー”は、リナロールとカンファという成分を含み、真正ラベンダーをよりハッキリさせた香りが特徴で”男のラベンダー”とも呼ばれます。リラックスしたい時よりも朝リフレッシュしたい時などにおすすめの品種です。

”ラバンジン”は、真正ラベンダーとスパイク・ラベンダーを交配させた品種で、成分もこの2種類と同じである酢酸リナリルとリナロールを成分に含みます。真正ラベンダーより少し刺激ある香りが特徴です。

”フレンチ・ラベンダー”は、ストエカス・ラベンダーやスパニッシュ・ラベンダーとも呼ばれます。ケトンという成分を多く含み、スッキリとした香りが特徴でリフレッシュしたい時や虫除けとしてもおすすめの品種です。

なでしこジャパンの選手たちを癒したラベンダー

主に筋肉疲労の回復、ホルモンバランスなどの体内環境の調整、ストレスや緊張などのメンタルケアに効果があるアロマオイル。実際女子サッカーのなでしこジャパンの選手たちを癒したエピソードもあります。カナダワールドカップの決勝戦でアメリカに敗れたなでしこジャパン。翌年のオリンピック予選では「金メダルを取らなければ」という気持ちで相当なプレッシャーがかかっていたため、心身共にかなり疲労していたそうです。

そんな選手たちをリラックスさせるために嗅がせた香りが”ラベンダー”。「わあ良い香り。何この香り?」と選手たちは喜んだと言います。普段”ラベンダー”と聞くとなでしこジャパンの選手たちは選ばないという香りでしたが、あえてアロマオイルの名前は伏せて嗅がせたのでした。ラベンダーの香りだと聞くと「え?いつもは選ばないのになんで?」とみんな驚いたそうです。

人間の体は”足りないものを補う”という性質を持っています。普段は生理的に”この香りが好き”と感じるものですが、足りないと感じるものがある時にはその効果がある香りを好むのが本能なのです。

眠れない人は眠れる香りを求め、緊張気味な人はリラックスできる香りを求めます。天然の精神安定剤と呼ばれるセロトニンの分泌を助ける作用を持つ”ラベンダー”。ストレスやプレッシャーを感じていたなでしこジャパンの選手たちの精神状態にピッタリとマッチしていたのでした。デリケートでナイーブな人がラベンダーの香りを嗅ぐと「良い香り」と感じることも多いのだそうです。

今回は、スポーツアロマの中でもラベンダーについてお話しました。身体的にも精神的にも良い影響を与えることが研究されているアロマオイル。アスリートには、安定したメンタルを保つことが重要です。リラックスできる香りやその時の心境を察することまで可能になれば、よりパフォーマンス向上に活かせることができます。

選手たちをサポートする上でアロマオイルが万能なアイテムであることに間違いありません。今後も多くの選手たちにスポーツアロマを認知してもらい、有効活用してもらえるように発信していきたいと思います。